楽士がなぞる譜面のように、寸分の狂いなく構築された世界。
降り注ぐ日差し、馨る新緑、きらめく水面。命のあるべき姿に、綻びはいっさい見受けられない。
しかし、それは静かに胎動を始めている。
踏み締めた大地の下、崩壊の旋律を刻みながら。
*
星が巡り季節が移ろうように、続いていく人の生。
刹那の時であろうとも、響き奏でられるその音色。
彼らの行く先には、避けられない別離が待ち構えている。
いずれ終わるなら、何故出会うのか。
ひとたび途絶えたなら、それは永遠の喪失であるのか。
諦めるのはたやすく、抗うのは困難である。
受け入れるのはむずかしく、牙を向くのは容易である。
ただ、二度と悔やむことのないように。
築かれるものが屍であろうとも、いま一度刃をとる勇気をこの手に。
エオルド=カーカス
「老いたる騎士の軌跡」より |